「通勤」とは、労働者が、(1)就業に関し、(2)次に掲げる移動を(3)合理的な経路及び方法により行うことをいい、(4)業務の性質を有するものを除くものとされていますが、労働者が、(5)次に掲げる移動を
逸脱し、又は次に掲げる移動を 中断した場合には、逸脱又は中断の間及びその後の次に掲げる移動は通勤とはされません。ただし、逸脱又は中断が日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、逸脱又は中断の間を除き通勤とされます。
このように、通勤災害とされるためには、その前提として、次に掲げる移動に該当する間の往復行為が通勤の要件を満たしている必要があります。
@ 住居と就業の場所との間の往復、
A 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動(複数就業者間移動を指す。)、
B @ に掲げる往復に先行し、又は後続する移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)(単身赴任者の赴任先住居と帰省先住居の間の移動を指す。)。
参照:
●就業に関し:往復行為が業務と密接な関連をもって行われることを要するという意味で、労働者が被災当日業務に従事することになっていたこと、又は現実に従事したことが必要です。寝過しの遅刻や、ラッシュ回避の早出等。往 復行為が就業と関連しているかどうかですが、特に問題になりやすいのは、退勤の場合です。例えば、業務の終了後、事業場施設内でスポーツ、サークル活動等をした後に帰途につくようなことはよくあることですが、この場合にも、このような活動を二時間にわたって行うなど、就業と帰宅との直接的関連性を失わせるような事情が介在しない限りは就業との関連性が認められるのが通常です。
●住居及び就業の場所: 住居とは、労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、本人の就業のための拠点となるところです。したがって、家族の住む場所とは別の場所にアパートを借りそこから通勤する場合はアパートが住居となる。また、交通ストライキ等の交通事情その他やむを得ない事由で一時的に居住の場所を移している場合、その場所は住居と認められます。が、友人宅で麻雀をし翌朝そこから直接出勤する場合等は、その友人宅は就業の拠点となっているのではないから住居とは認められません。更に、単身赴任者等が週末等に就業の場所から家族の住む家屋(以下「自宅」といいます。)へ帰り、週始め等に自宅から就業の場所へ出勤する場合(「週末帰宅型通勤」といいます。)について、当該家族の住む自宅は住居と認められます。
就業の場所とは、業務を開始し又は終了する場所をいいます。なお、就業の場所は、原則として、労働者が本来の業務を行う場所ですが、物品を得意先に届けてその届け先から直接帰宅するような場合は、その物品の届け先が就業の場所となります。全員参加で出勤扱いとなる会社主催の運動会会場も就業の場所に該当します。また、
a 複数就業者の事業場間移動の起点たる就業の場所とは、労災保険の適用事業に係る就業の場所、特別加入者に係る就業の場所等とされています。
b 単身赴任者の赴任先住居と帰省先住居の間の移動の要件は、配偶者と別居した場合、配偶者が無い場合において18歳到達年度末までにある子と別居した場合及び配偶者も子もない場合において同居介護していた要介護状態にある親族と別居することになった場合等となっています。
●合理的な経路及び方法:
合理的な経路及び方法とは、労働者が先に掲げた移動(@〜B)の間を往復する場合に、一般に用いると認められる経路及び手段等をいいます。したがって、特別の合理的理由もなく著しく遠まわりとなる経路をとる場合は合理的な経路と認められず、また、免許を一度も取得したことのない者が自動車を運転して通勤するような場合は合理的方法とは認められないことになります。
例外:合理的経路と判断される:定期券表示・会社届け出の鉄道等の経路、マイカー利用の通常考えられる複数の経路、共働き労働者の託児所等に寄る経路。
●経路: 門または玄関内からは住居内となり通勤災害とならない。
●業務の性質を有するもの:事業主の支配下にある移動行為とされ通勤とはみなされない:事業主の提供する専用通勤バス通勤、休日・休暇中の呼び出し等の予定外に緊急出勤。
●「逸脱」と「中断」:通勤とは、就業に関し、先に掲げた移動(@〜B)の間を合理的な経路及び方法で往復する行為ですが、時として逸脱したり中断することがあります。
逸脱とは、通勤の途中で就業や通勤と関係のない目的で合理的な経路をそれることをいい、中断とは、通勤の経路上で通勤と関係ない行為を行うことをいいます。
具体的には、通勤の途中で映画館に入る場合、バーで飲酒する場合などをいいます。
例外.通勤の途中において、経路近くの公衆便所を使用する場合や経路上の店でタバコ、雑誌を購入する場合など「ささいな行為」を行う場合には、逸脱、中断には当たらないことになります。すなわち、些細な行為の場合、就業場所ー些細な行為ー住居の経路および些細な行為自体もすべて通勤災害対象となります。
取扱注意:通勤の途中で逸脱又は中断があると、逸脱・中断行為を含めて以後の通勤行為は原則として通勤とはされません。が、これについては例外が設けられ、日常生活上必要な行為であって厚生労働省令(則8条)で定めるものをやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合には、逸脱又は中断の間を除き(日常生活上必要な行為自体は通勤災害対象とならないが)、合理的な経路に復した以後は再び通勤とされます。日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものは、次のとおりとされています:
(イ) 日用品の購入その他これに準ずる行為、
(ロ) 職業能力開発促進法第15条の6第3項に規定する公共職業能力開発施設において行われる職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為、
(ハ) 選挙権の行使その他これに準ずる行為、
(ニ) 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為。
●出張:朝自宅より直接出張先へ向かうなど、業務の性質を有する通勤は通勤災害から除かれ、業務上災害として扱われる場合がある。出張先での全期間は、私的行為も含めて広く業務起因性が認められる。すなわち、宿泊先のホテルから現場へ出かけるのみでなく、お土産を買う、食事をする、なども業務上に含まれる。但し、積極的に私的な行為(催し物の見学・その帰りの自動車事故など)は業務上より除外される。
●通勤疾病:通勤災害とされるためには、通勤と疾病との間に相当因果関係のあることが必要です。つまり、通勤に通常伴う危険が具体化したものであることが認められなければなりませんが、これは業務災害の場合のいわゆる業務起因性に相当するものです。
なお、通勤による負傷に起因する疾病とは、自動車事故による慢性硬膜下出血などをいい、通勤に起因することの明らかな疾病とは、転倒したタンクローリーから流れ出す有害物質により急性中毒にかかった場合などをいいますが、この場合にも業務災害の場合と同様の考え方によって通勤災害となるかどうかが判断されることになります。